近世以降の聖書翻訳
ラテン語で書かれた聖書を理解できるのは一部の者だけだった。1381年、ジョン・ウィクリフがラテン語から翻訳した英訳聖書は、母国語訳聖書の先駆けと言える。マルティン・ルターは、彼の進める宗教改革の一環として、聖書を原典からドイツ語に翻訳し、新約聖書は1522年、続編を含む旧約聖書は1534年に出版された。英訳では、1525年、ウィリアム・ティンダルが原典から新約聖書を翻訳したのを皮切りに、1611年には「ジェームス王欽定訳」が完成し、これは今日でも権威ある英訳として定評がある。こうして、新たに各国語で翻訳された聖書は当時確立した印刷術と相まって、各地で広く読まれることとなった。
現代の聖書翻訳
近世以降、本格化した聖書翻訳は、19世紀に入ると、その言語数が飛躍的に増大した。これはこの時代に盛んになった宣教活動に伴うもので、欧米列強がアジア・アフリカを植民地化していく帝国主義の動きがその背景にあった。宣教師たちは世界の奥地まで分け入り、数多くの民族の言語に聖書を翻訳していった。現代の聖書翻訳は、そのような帝国主義への反省に立って行われている。20世紀後半、母国語で典礼を行うことや、エキュメニズムを推進したヴァチカン公会議(1961〜1965)以降は、各国でカトリックとプロテスタント共同の翻訳事業が行われることになった。今日では、まだ聖書翻訳のない少数言語への翻訳が進められる一方で、すでに複数の翻訳を持つ国でも、点字聖書、手話訳聖書や、伝道用、礼拝用、若者向けなど目的に応じた様々な聖書翻訳が登場している。
翻訳史
翻訳史01|ザ・バイブル
聖書を表す語として知られているバイブルは、ギリシア語のビブリオンに由来し、書物を意味する…
翻訳史02|聖書は何語で書かれたか
旧約聖書はヘブライ語で記されている。ごくわずかの部分は…
翻訳史03|聖書の成り立ち
「旧約聖書」という呼び方はキリスト教において「新約聖書」と対応して名づけたもので…
翻訳史04|聖書は写本で伝えられた
われわれに伝えられた聖書の本文はすべて写本によるもので、聖書の原本というものは…
翻訳史05|ギリシア語の写本
ギリシア語写本は大文字写本Uncialと小文字写本Minusculeとに大別される…
翻訳史06|パピルスやヴェルムに
パピルス紙はエジプトにおいて紀元前3000年ごろ考え出された…
翻訳史07|翻訳された聖書 古代から中世
古今東西の文献の中で、聖書ほど古くから今日に至るまで多くの翻訳がなされてきたものはない…
翻訳史08|すべての人々の手に聖書を 近現代の聖書翻訳
ラテン語で書かれた聖書を理解できるのは一部の者だけだった…