われわれに伝えられた聖書の本文はすべて写本によるもので、聖書の原本というものは存在していない。旧約聖書全書のヘブライ語写本で現存しているものは紀元10世紀以前のものはない。断片的なものでは1世紀に属する儀式に用いられたと思われる「十戒」と申命記6:4以下の古写本が19世紀末にカイロで発見されている。1947年にいわゆる「死海写本」が発見されて、紀元前1世紀から紀元1世紀に属するヘブライ語聖書写本を手にすることができた。最初の洞窟から発見されたものの中には完全なイザヤ書写本が含まれていた。今日までに11の洞窟からエステル記を除くすべての旧約聖書写本が発見された。これらの写本を作成した人々は、この洞窟群に近いクムラン台地に居を構えて、厳しい宗教的戒律生活をしていたユダヤ教の一派の人々である。この発見によって一挙に1,000年も前の写本にさかのぼることができたのである。

中世においては、ソ-フェリ-ムと呼ばれる職業的な写本作成家と、マソラと呼ばれる学者たちによって、聖書本文が正確に伝えられるよう努力がなされた。マソラ学派は母音記号を考案し、子音本文にこれを付して聖書の読みを確定した。8世紀後半から10世紀中ごろまで指導的役割を担ったのはベン・アシェル家の人々で、その写本の貴重なものは「カイロ写本」(895年)、「アレッポ写本」(930年)、「レニングラ-ド写本」(1008-1010年)の3つである。

写真の説明
クムラン第4洞窟(写真提供/横山 匡)[左]と写本の巻物が入っていた壷[右]。この洞窟に近いクムラン台地から発掘されたクムラン教団の共同体の住居から、写本を作成した机やインク壷も発見された。


翻訳史

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