紙の聖書の制作・その現状

19都道府県の緊急事態宣言と8県のまん延防止等重点措置が9月30日の期限をもってすべて解除となります。永続的であることが約束されているわけではありませんが、小売業・観光業にとっては大きな朗報です。感染防止には継続的に努めつつ、経済活動が正常化へと進むことを期待しています。

このコロナ禍の約2年間にさまざまなことが変化しました。その一つがDX(デジタルトランスフォーメーション)推進によるリモートワーク化とペーパーレス化です。紙の需要はコロナ禍前から減少していましたが、この機に多くの企業や自治体でタブレット端末の利用、ウェブ会議の実施、オンライン資料の導入が進みました。特に行政では必要であったことでしょう。私ども聖書協会内でも全社的に取り組んでいます。

紙の需要が下がると、紙の値段も下がるのでしょうか? 答えは否です。印刷用紙はコロナ禍前から高騰していました()。印刷用紙の値上がりの元々の理由は、原材料や物流コストの高騰でした。2016年より続く印刷用紙の原材料となるチップ・重油・化学薬品など原燃料価格の上昇により、2019年には製紙会社大手3社(日本製紙、王子製紙、大王製紙)が印刷・情報用紙の価格を10-20%引き上げました(※※)。また、古紙などの需要がベトナムなど新興国で高くなっているという要因もあります。さらに付け加えると、日本は何十年も持続的な物価下落が続くデフレ状態ですが、その他の国々はインフレです。このような複雑な事柄が重なりあって値段は上がっています。私たちだけでなく、聖書事業に関わる関連企業なども価格引き上げをできるだけせずに耐えてきましたが、その限界がきています。

では、すべてをデジタル化すれば良いのでしょうか?それも否です。聖書協会世界連盟(UBS)内でも「DBL(Digital Bible Library)」という聖書をデジタルアーカイブ化するプロジェクトが進んでいますが、紙の聖書の需要と価値は変わることなく存在します。ソフトウェアの開発、ウェブ上での使用、オーディオブック形式の配信サービスなどの開発を進めながらも、学校や教会で紙の聖書を使用すること、また礼典におけるその習慣と文化を大事にすることの必要性は揺らぎません。聖書普及事業の柱はこれからも紙の聖書を制作していくことだということを深く悟らされています。

日本聖書協会にとって、紙の聖書制作の最も大きな課題は「講壇用聖書」の制作です。原材料の高騰によって紙の値段が上がることだけが課題ではなく、実際に国内で制作できる職人がいなくなったという大きな課題に私たちは直面していました。講壇用聖書の使用は日本の教会の伝統・文化であり、それを守らなければならない。現在、講壇用聖書の「新共同訳」版は品切れで再販できません。では「聖書協会共同訳」版を作れるだろうか。約2年間に及ぶ調査の結果、制作が可能となる道を見出すことができました。オランダのFopmaWier(フォプマ・ヴィエール)製本所の有能な職人W・フォプマ(Wytze Fopma)氏に辿りつき、講壇用聖書の制作ができることを確認しました。このストーリーは別の機会に配信したいと思いますが、まさに奇跡と呼べる出会いと協力がありました。これで日本の教会の皆さまの要望に応えることができます。詳細は改めてご案内いたします。

「聖書協会共同訳」講壇用聖書制作見本
「聖書協会共同訳」講壇用聖書制作見本

また、自分が幼い頃から聖書に親しんできたことをも知っているからです。この書物は、キリスト・イエスへの信仰を通して救いに至る知恵を与えることができます。聖書はすべて神の霊感を受けて書かれたもので、人を教え、戒め、矯正し、義に基づいて訓練するために有益です。
(新約聖書・テモテへの手紙第二3:15-16)

私たちはさまざまな政治や経済の影響を受けながら生活しています。聖書協会の働きはイギリスの田舎に住む一人の少女、メリー・ジョーンズが「もっと聖書を読みたい」という願いでお金を貯めて聖書を買ったというストーリーから始まりました(※※※)。聖書を誰もが買える価格で提供していく。そのことにこれからも取り組んで参りますが、制作面ではこのような課題があることをご理解いただければ幸いです。

主の恵み

2021年10月1日

参考情報


「製紙各社が1月1日出荷分から印刷・情報用紙値上げへ」
2018.11.12付日本印刷新聞
※※
「印刷・情報用紙の価格修正について」
2018.11.5付日本製紙グループニュースリリース
※※※
聖書とメリー・ジョーンズ物語